無題
あのとき
゛雨にぬれるのが好きなの゛
と
あなたの差し出す傘をこばんだのは
わたしじゃなく
緑の匂いがする あの雨の中に
消えて、なくなりたい
と 思った この心だった
もう
あざやかに思い出すことなどできない
差し出した手のやり場を失った
あなたの髪を
額を
くびすじを
しずかに雨がぬらしてゆく
突然の風のあとに
舞い降りる沈黙の影は
ゆれる瞳の奥に
どんな想いを刻んだの
ふいに背を向けて走り去った
あなたのまなざし
雨のカーテンにさえぎられ
もうどこにも 見当たらない
たちこめる雨の匂いには
桜の香りがほのかにとけていた
ぬれた傘から落ちる雫
ぽとり ぽとり
私の指をぬらし
傘をおしつけたあなたの
手のぬくもり
ココロの余韻
今も 残ったままに
あの時と同じ おだやかな雨
春を迎えるたびに またおとずれる
桜の音符 風の楽譜に並べて歌う
散り急いだ 無数の花びら
ふみながら ひとり歩く
髪を
睫を
そっとしめらせて
やさしくたたずむ
淡い甘い桜の香りが
一つの風景をつないでいる
今もまた
静かにふりしきる雨のむこうに
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